院長コラム

教職員対象の性教育講習会のご報告(2)

今回は前回に引き続き、ある都立高校の教職員の先生方を対象とした講習会から、「妊娠と避妊法」の概略をご報告致します。

 

 

妊娠のメカニズムについて

月経開始から約2週間後、卵子が腹腔内に排出され(排卵)、排出された卵子は卵管の先端にある卵管采に捉えられ、卵管の中を子宮に向かって移動します。ちょうど排卵の時期に性交すると、精子は腟から子宮頚管、子宮腔を経て卵管に進入します。卵子と精子は卵管膨大部で受精して受精卵となり、その後は細胞分裂を繰り返しながら子宮内腔を目指して移動します。排卵後約1週間で、受精卵は子宮内膜に到達し着床します。
着床後、絨毛という組織が形成され、ヒト絨毛性ゴナドトロピン(hCG)というホルモンが産生されます。ちなみに、着床から約1週間後、月経開始から約4週間後、つまり排卵や性交から約2週間後には、尿中にhCGが排出されます。妊娠検査薬は、この尿中hCGの有無で妊娠しているかどうかを判定しています。

 

 

避妊法の有効性

様々な避妊法がありますが、「性交しない」という以外、100%確実な避妊法はありません。
最も手軽な避妊法にコンドームがあります。もちろん、性感染症予防のために男性がコンドームを適切に装着すること必要ですが、避妊法としての有効性はあまり高くなく、一般的な使用の場合、約15%が妊娠に至るといわれています。
10代女性の場合、「性交」と「避妊」を両立するのであれば「低用量ピル(OC)」服用が最善です。理想的な使用であれば、まず妊娠はしません(有効性99.7%)。ちなみに、月経困難症の治療で服用する低用量エストロゲン・プロゲストン配合薬(LEP)もOCと同じ薬剤であるため、全く同じ避妊効果があります。

 

 

OC・LEPの作用

OC・LEPの作用は大きく3つあります。
一つ目は「排卵をさせないこと」です。もし精子が子宮から卵管に進入してきたとしても、卵子と受精することはありません。
二つ目は「子宮頚管の粘液を粘稠にすること」です。子宮頚管からは頚管粘液が分泌されます。排卵前には精子を受け入れやすいように、粘稠性が低い(ツルーッとした)粘液になり、排卵後は雑菌などが子宮内に入らないように、粘稠性が高い(ベトッとした)粘液になります。OC・LEPは、常に頸管粘液の粘稠性を高めることで、精子が子宮に入ることを阻止します。
三つ目は「子宮内膜を菲薄化させること」です。ホルモンの効果で子宮内膜は菲薄化されます。すると、万が一排卵して、卵子と精子が受精したとしても、受精卵が薄い内膜に着床することはできません。つまり、最終段階で妊娠の成立を阻止します。

 

 

緊急避妊法

緊急避妊法とは、避妊しなかった、あるいは避妊に失敗した場合の緊急的措置です。性交後72時間以内に「レボノルゲストレル錠1.5mg」を1錠服用しますが、性交から早ければ早いほど効果的です。「レボノルゲストレル錠1.5mg」服用者全体での避妊失敗率は2%といわれています。この薬剤は排卵を数日後ろにずらすことで、精子を卵子と受精させないようにします。したがって、服用後数日以内に性交を持つと、丁度排卵期と当たってしまうため、妊娠する可能性が高くなります。
緊急避妊はあくまでも緊急避難的な方法であって、繰り返し使用するものではありません。当院では、緊急避妊薬「レボノルゲストレル錠1.5mg」服用された方全員に、翌日からOCを服用してもらい、次回月経まで性交を控えて頂いています。

 

 

妊娠人工中絶手術について

もしも10代で妊娠してしまった場合、今後の方針について速やかにパートナーやご家族とご相談しなければいけません。妊娠の継続が母体の健康を著しく損ねるような場合、パートナーの同意の上で(当院ではご本人の保護者の方の同意も必要)、母体保護法に基づき人工妊娠中絶手術を行なうことができます。
ただし、妊娠22週を超えると中絶手術することはできません。また、妊娠12週を超えると死産届けが必要となり、手術も大掛かりになるため、できるだけ早い週数での中絶手術が望ましいでしょう。

 

 

日頃より思春期の若者と接していらっしゃる教職員の方々に、低用量ピルや緊急避妊法などの新しい情報をお伝えすることはとても大切なことだと思っています。
このような機会をきっかけに、大人から子供たちへ正しい性の情報をお伝え頂き、子供たちの間で広まっていく事を願っております。