院長コラム

授乳中のトラブルに対する漢方薬

授乳中のお母さんは、産後のホルモン環境の急激な変化や母乳育児の疲労などに伴い、心身に様々なトラブルを生じる事があります。
そのようなお母さんを多職種でサポートすることを目的として、日本母乳哺育学会の講演会が週末に開催されました。
私も参加して多くの学びがありましたが、今回は、授乳中の心身のトラブルに対する漢方薬の使用について、一部情報を共有したいと思います。

乳腺炎・乳房膿瘍:葛根湯・五苓散・排膿散及湯
乳腺炎の急性期によく用いられるのは葛根湯(カッコントウ)で、当院でも第一選択として処方することがあります。葛根湯は末梢血管の血行不良を改善し、炎症を抑える作用があるため、乳腺炎治療にとても有効です。
また、浮腫や頭痛、めまいなどで処方されることが多い五苓散(ゴレイサン)は、乳汁分泌過剰により乳房痛がみられる場合、いい適応になるようです。というのも、五苓散には体内の水分バランスを整える働きがあり、それが乳汁分泌過多の抑制も期待できるとのことでした。
尚、化膿性乳腺炎が進行し、膿が溜まってしまった場合、切開・排膿と抗生剤投与が基本になりますが、排膿をサポートし、炎症を鎮静化させるために、排膿散及湯(ハイノウサンキュウトウ)も有用とのことでした。

乳汁分泌不良・貧血:きゅう帰調血飲(キュウキチョウケツイン・人参養栄湯
分娩後に乳汁分泌な不良な方には、きゅう帰調血飲(キュウキチョウケツイン)を使用することがあり、特に3∼4週間以内の方には有効とのことです。更に、この漢方薬には気持ちを安定させる作用もあり、当院でも多くの授乳婦さんに処方している漢方薬の一つです。
また、産後3∼4週間以降の乳汁分泌不良の方には、人参養栄湯(ニンジンヨウエイトウ)が推奨されています。人参養栄湯は貧血に有用な漢方薬ですが、元気を注入する作用もあり、当院でも産後の疲労感が強い方に使用しています。

イライラ・不安感・抑うつ:抑肝散・加味帰脾湯・半夏厚朴湯
乳房トラブルや育児ストレスにより、授乳婦さんは様々な精神症状をきたすことが多く、そのサポートには向精神薬だけでなく、漢方薬も有効です。
イライラや不眠の方には抑肝散(ヨクカンサン)や、胃腸が弱い方には抑肝散加陳皮半夏(ヨクカンサンカチンピハンゲ)が代表的な薬剤であり、母乳を介して赤ちゃんにもいい影響を及ぼすそうです。
不安感が強い方には加味帰脾湯(カミキヒトウ)を使用することがあります。加味帰脾湯には安心感を与える「オキシトシン」というホルモンの分泌を促す作用があると言われており、人参養栄湯と同様に元気を補充する作用もあります。
産後の抑うつ傾向がある方、特に喉の詰まり感がある方には半夏厚朴湯(ハンゲコウボクトウ)が有効です。当院でも処方することが多いですが、抑うつ症状が強い方や、漢方薬では効果不良な場合は、メンタルクリニックへ紹介させて頂いております。

産後のお母さん、特に授乳婦さんは、様々な心身のストレスが多く、お一人だけで、あるいはご夫婦だけで頑張ろうとするには限界があります。
決して無理せず、地域の子育て支援センターや、産後ケアや母乳外来を行っている施設を頼って下さい。

そして、漢方薬にはそのようなお母さんの症状を和らげ、生活の質の向上にお役に立てる可能性がありますので、是非ご検討下さい。