院長コラム

妊婦健診で前置胎盤が疑われた場合の対応

胎盤が内子宮口(赤ちゃんの出口)の一部あるいは全部を覆っている状態を前置胎盤といい、胎盤が覆っている程度から、全前置胎盤、部分前置胎便、辺縁前置胎盤に分類されます。分娩様式は帝王切開とし、術中出血が多量になる可能性があるため、輸血ができる体制を整えておく必要があります。
今回は、当院での妊婦健診で、前置胎盤が疑われた場合の対応について説明します。

 

 

前置胎盤の診断法と時期

前置胎盤の診断は、経腟超音波検査により内子宮口と胎盤辺縁の位置関係を観察して行います。ただし、妊娠の早い時期に診断すると、子宮増大などに伴い次第に胎盤が上方へ移動し、胎盤辺縁が内子宮口から離れて、結果的に前置胎盤でなくなることも少なくありません。
反対に、妊娠末期になっても診断をつけず適切な対応を取らなければ、帝王切開の準備をする前に大出血してしまう可能性があります。

「産婦人科診療ガイドライン 産科編2017」(日本産科婦人科学会/日本産婦人科医会編集・監修)では、おおむね妊娠20週以降に胎盤辺縁と内子宮口の位置関係の推移について、注意深く観察することが求められています。

また、前置胎盤では妊娠28週以降に性器出血の頻度が増加し、平均分娩週数は34~35週といわれています。そのため、ガイドラインでは「自院では緊急時の対応困難」と判断した場合は妊娠31週末までに他院を紹介し、妊娠32週末までに他院受診が完了するように、と勧められています。

 

 

当院の妊婦健診と前置胎盤が疑われた場合の対応

当院では、妊娠16週頃から経腟超音波による子宮頚管長測定および胎盤辺縁の位置確認を行なっています。妊娠20週頃で前置胎盤が疑わしい場合は、その後健診の度に胎盤辺縁と内子宮口との位置関係を注意深く観察しています。

また、妊娠24週頃にも全例に経腟超音波検査を行い、引き続き前置胎盤が疑われる場合は高次施設への転院を視野に入れます。妊娠25~26週の時点で前置胎盤が疑われるようであれば、例え辺縁前置胎盤であったとしても転院と致します。

前置胎盤疑いの妊婦さんは、東京医療センター、国立成育医療研究センター、日赤医療センター、昭和大学病院などへ紹介することが多いですが、出血の有無・頚管長短縮の有無・胎児発育の状況などを考慮して転院先を決定します。

 

 

前置胎盤はいつ大出血するかわからない、非常に危険な病態です。
特に里帰り分娩予定の方、お仕事をされている方などは、帰省の時期、お仕事の予定、休みの時期など、スケジュールの大幅な組み換えが余儀なくされます。
赤ちゃんとお母さんの安全のために、是非ご家族や周りの方々に状況をご理解して頂き、皆さんに支えて頂きましょう。