院長コラム

卵巣がんの予防・早期発見は可能か?

女性の200人に一人が卵巣がんで亡くなるといわれています。子宮頚がん・体がんで亡くなる方は300~400人に一人と言われていますので、婦人科悪性腫瘍の中でも卵巣がんは死亡率が高いといえます。
早期発見が難しい卵巣がんですが、日本産科婦人科学会雑誌9月号に卵巣がんの予防・早期発見に関する記事がありましたので、その一部をご紹介しつつ、当院の対応についてお話したいと思います。

 

 

卵巣がん発症予防(1):卵管切除・卵管結紮

最近の研究では、卵管の上皮組織や月経血の逆流に伴う子宮内膜組織から、一部の卵巣がんが発生することがわかってきました。そのため、がんの発生母地である卵管を切除することや、月経血が卵管を通じて逆流しないように卵管結紮をすることが、卵巣がんの予防になるのでは、と考えられています。

実際、スウェーデンでの研究では、卵管切除や卵管結紮により30%以上も卵巣がんの罹患者は減少したと報告しています。そのため、良性疾患手術時に卵管切除を追加して行うケースが、今後日本においても増えるといわれています。

 

 

卵巣がん発症予防(2):OC/LEP(低用量ピル/低用量エストロゲン・プロゲスチン配合剤)服用

日本の20~49歳の卵巣がんの死亡者数はアメリカ、ヨーロッパを上回っており、その理由の一つに日本ではOC/LEPの服用率が低いことが挙げられています。

OC/LEPは子宮内膜を薄くする作用があるため、もし卵管を通じて子宮内膜が逆血しても、内膜細胞は少ないため、卵巣に付着し増殖する内膜細胞数は少なくてすみます。最近では実薬を120日間連続して服用するLEP製剤が主流になっています。そのような製剤を使用すると月経の回数が減るため、さらに卵巣に付着する内膜細胞の減少が期待できます。

また、子宮内膜症性のう胞(チョコレートのう胞)からの卵巣がんの発生は、アジア人、特に日本人に多いと言われています。約1%前後の子宮内膜症患者さんが癌化すると推測されているため、LEP製剤による子宮内膜症の治療や予防が、結果的に卵巣がんの予防に繋がることになるでしょう。

 

 

卵巣がんのスクリーニングは困難

経膣超音波検査と腫瘍マーカーであるCA125を用いた卵巣がんスクリーニングの臨床試験によると、期待された死亡率の低下は認められず、むしろ偽陽性(がんでないのにスクリーニングで陽性)であった場合のデメリット(不必要な外科的介入や心理的な不安など)が少なくなかったそうです。

現在、多くの施設で新たな腫瘍マーカーの研究がなされており、卵巣がんのスクリーニングに適した検査方法が近い将来見つかるかも知れません。それまでは、超音波検査を中心に従来の腫瘍マーカーを組み合わせて、慎重にスクリーニングを行うしかないでしょう。

 

 

当院では、世田谷区の子宮がん健診でいらした方全員に、経膣超音波を行っています(下腹部痛など症状があれば保険診療、症状がなければ無料)。もし、卵巣腫瘍が見つかった場合は、更に検査を進めて、必要に応じて高次施設へ紹介します。
また、思春期の月経困難症の方にはLEP製剤(特に連続長期投与)を積極的に勧めています。現在の月経痛の改善だけでなく、将来的な卵巣がんの予防に繋がると考えられますので、妊娠を希望するまで、長期にわたって服薬して頂ければと思います。