院長コラム

児童虐待防止について

先日、目黒区で大変痛ましい虐待による死亡事例がありました。
産婦人科医療に携わっている私たちも、身近で起きたこの事件に大変な衝撃を受けました。
今回は、全国および世田谷区での児童虐待防止のための取り組みについて、産婦人科の観点から説明します。

 

 

特定妊婦について

虐待による死亡事例の4割以上は0歳児であり、実母が関与していることがほとんどです。
背景として、母親が一人で悩みを抱えている場合、若年出産や望まない妊娠であった場合、母親自身が病気である場合、パートナーからのDVがある場合など、家庭環境に問題がある事例が多いと言われています。

児童福祉法では、「出産後の養育について出産前において支援を行うことが特に必要と認められる妊婦」を特定妊婦と定義し、虐待予防のためには出産前から関係機関が関わる必要がある、としています。

 

 

特定妊婦の判断基準(チェックリスト抜粋)

(1) 妊娠中、妊婦健診を受けていない、または3回未満の方。
(2) 望まない妊娠で、「産みたくない」、「育てる自信がない」などの発言がある方。
(3) 妊娠後も飲酒・喫煙を繰り返す(胎児虐待)。
(4) 精神疾患・発達障害・情緒障害がある方。
(5) 子どもを世話しないなど、すでに養育の問題がある方。
(6) 未婚・一人親など、夫や親族など身近な支援者がいない方。
(7) 10代の妊娠、40歳以上の初産の方。
(8) 経済的に困窮している方。
(9) 虐待をした経験または虐待された経験がある方。
(10) 他者への暴言・暴力や攻撃的・衝動的な言動がある方。

その他のチェックリストを参考にして、我々が特定妊婦と判断した場合、積極的に行政へ連絡し、情報を共有致します。

ちなみに、行政への情報提供に際し、原則的にはご本人の同意を頂きますが、平成28年の児童福祉法改正に伴い、同意がない場合でも特定妊婦の情報提供は守秘義務違反には、あたらならなくなりました。

 

 

児童虐待発生の4要因

(1) 多くの親は子供時代に大人から愛情を受けていなかった。

(2) 生活にストレス(経済的不安や夫婦不和、育児負担など)が積み重なって危機的状況にある。

(3) 社会的に孤立し、援助者がいない。

(4) 親にとって意に沿わない子(望まない妊娠・愛着形成障害・育てにくい子など)である。

特定妊婦に対して、この4つが揃わないように働きかけることが必要であるといわれています。

 

 

当院の対応について

我々は特定妊婦だけでなく、すべての妊産婦さんが社会的に孤立しないように、妊娠中は妊婦健診・様々な指導・母親学級など、分娩後は母乳外来や「すくすく外来(育児相談外来)」などで積極的に関わり、不安や悩みを解消するよう努めております。

必要に応じて、世田谷区の行政機関をはじめ、妊産婦さんの住民票がある自治体へ情報を提供し、妊産婦さんをサポートして頂いております。

また、近隣のメンタルクリニックとも連携し、子供のかかりつけとなる小児科クリニックへも連携を繋げています。

 

 

妊娠中から育児中にかけては、思い通りにならないことの方が多いかと思います。
一人で悩まず、虐待をしそうになっても自己嫌悪に陥らず、当院をはじめ、かかりつけの医療機関や行政機関に是非ご相談下さい。
そして、いらいらしやすい方、すぐに怒りやすい方には漢方薬も処方できますので、当院で健診・分娩をしていない方も、是非お気軽にご来院下さい。