院長コラム

産婦人科乳腺医学会に参加して

この度、「関東産婦人科乳腺医学会」に参加して参りました。
この学会は、産婦人科医、助産師、乳腺外科医、形成外科医、検査士など、乳腺疾患に携わる多職種の先生方が一堂に会する、大変有意義な会です。
今回も、乳がん検診、治療に関する新たな学びがあり、当院のこれまでの乳房診療を見直すきっかけとなりました。
本日は、乳房に関する日頃の当院の取り組みと、今後改善していきたい事についてお話致します。

妊娠前・妊娠中の乳房検診
当院では、妊娠12週頃の妊婦健診の際に、触診・超音波検査で乳房検診を行っており、明らかに良性の病変とは判断できないケースについては、近隣のブレストクリニックへ紹介させて頂いております。
また、助産師からは、産後の母乳育児を快適なものにする観点から、自己乳房マッサージ法について指導しています。
ただし、今回の学会で、妊娠関連乳がんの早期発見・早期治療のためには、妊娠前そして妊娠期間を通じて、自分自身の乳房の状態を知ってもらうこと(ブレスト・アウェアネス:乳房を意識する生活習慣)が重要である、との話がありました。
今後は、当院でも「ブライダルチェック」の一環として乳房検診を取り入れるとともに、ブレスト・アウェアネスの指導も行う方向で考えています。
また、妊娠期の助産師からの指導の際には、ブレスト・アウェアネスについて声かけすることも検討して参ります。

授乳期の乳房検診
当院では、産後の乳房検診として、一か月健診時と卒乳時に触診・超音波検査を行っております。
今回の学会で、妊娠期の乳がんよりも産後・授乳期の乳がんの方が予後不良であり、産後5年以上そのリスクが続くというお話がありました。
これからは、母乳外来での「卒乳」をもって当院でのフォーローアップを「卒業」するのではなく、少なくとも産後5年程度は年一回の乳房検診などで繋がっていきたい、と考えています。

乳がん術後ホルモン療法中の更年期障害様症状に対する「エクオール」服用について
乳がん術後の追加治療として、エストロゲンという女性ホルモンの分泌を抑制することがあります。人工的に閉経状態にさせる治療であるため、ほてり、発汗、いらいら、抑うつ、関節痛など、更年期障害様の多彩な心身の症状が認められる事もあります。
これまで当院では、これらの症状に対して漢方療法が主流でしたが、中には効果不良の方もいらっしゃいます。
以前から、大豆イソフラボンのサプリメントである「エクオール」が有効であるとの話は伺っていましたが、乳腺外科の先生の中には、エクオールの女性ホルモン作用による悪影響を懸念されている先生方もいらっしゃるため、これまで当院では乳がん術後の方には使用していませんでした。
ただし、今回の学会では、大学病院の乳腺外科の先生から、乳がん術後のホルモン療法中の諸症状に対して、むしろ「エクオール」の服用を勧める、とのお話がありました。
乳がん治療に関しては、主治医である乳腺外科の先生の方針やご意見が最優先されることはもちろんです。
その上で、今後は当院でも、更年期様症状により生活の質が低下した方に対して、「エクオール」を候補として積極的に検討しようと考えております。

ブレスト・アウェアネスの普及のためには、“入浴やシャワー時、石鹸を手につけて乳房を洗い、変化がない事を確認しましょう。もし変化を感じたらすぐに医師に報告し、精査を受けましょう。”と声掛けすることが大切である。」とのお話がありました。
乳がんは30代から増加しますが、自治体の乳がん検診は40歳以上が対象です。
今後は当院として、20歳代から、可能なら高校生からブレスト・アウェアネスの重要性を伝えていきたい、と考えています。