院長コラム
月経困難症に対する女性ホルモン剤の使い分け
月経困難症に対して鎮痛剤を服用していてもその効果が不良な場合、女性ホルモン剤を使用することがあります。
子宮内膜組織で合成される痛み物質が月経痛の原因の一つと考えられており、「子宮内膜組織の増殖を抑えることで、痛み物質を減らそう」という発想から、女性ホルモン剤が月経困難症治療薬として汎用されるようになりました。
今回は、月経困難症治療として代表的な女性ホルモン剤をお示しし、その使い分けについてお伝えします。
低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬(LEP)が月経困難症治療薬の代表格
月経困難症の治療薬として保険適応がある低用量ピルをLEPといい、エストロゲンの量・プロゲスチンの種類・実薬服用期間・休薬期間・先発品かジェネリックか、などの違いにより様々な種類があります。
当院では、エストロゲンの量が少なく、月経回数(休薬期間)が少ない製剤(ヤーズフレックス配合錠、ジェミーナ配合錠)を処方することが多いですが、不正出血などの副作用によっては使用する製剤を変更することも少なくありません。
尚、排卵抑制の作用が強いため、避妊希望や排卵痛、月経前症候群のある方には第一選択となります。
血栓症リスクのある方には黄体ホルモン製剤
LEPは非常にいい薬剤ですが、エストロゲンの副作用として血栓症が挙げられます。例えば、前兆(閃輝暗点)のある片頭痛をお持ちの方は血栓症のリスクが高いため、LEPを服用することはできません。
そのような方には、血栓症リスクのない黄体ホルモン製剤のディナゲスト(ジエノゲスト)0.5㎎錠を処方しています。
ちなみに、卵巣チョコレート嚢胞など子宮内膜症がみられる方には、ディナゲスト1.0㎎錠を処方致します。
ただし、黄体ホルモン製剤は1日2回服用しないといけない事、避妊のためにはコンドームなど他の避妊法を行う必要がある事、副作用として不正出血が多くの方にみられる事など、気を付けるべき点もあります。
お産の経験のある方には黄体ホルモン放出子宮内システム(IUS)も
お産(特に経腟分娩)の経験のある方には、子宮内に一回挿入したら5年間効果が持続するIUSがお勧めです。
約3㎝のT字の器具で、高濃度の黄体ホルモンを持続的に、子宮内膜に限局して放出します。その結果、子宮内膜組織の増殖が抑制され、月経困難症の治療効果はもちろん、LEPと同等の避妊効果も発揮します。
経腟分娩の経験のない方でも、子宮頸管を少しずつ広げる処置をしてIUSを挿入することは可能です。
過多月経にも保険適応があるIUSですが、排卵を抑制することなく、排卵痛やPMSに対する効果はありません。
尚、IUSには血栓症リスクがないため、特に血栓症のリスクを注意しないといけない40∼45歳以上のLEP使用者に対し、IUSへの切り替えをお勧めすることがあります。
その他、子宮筋腫や子宮内膜症を合併している方には、人工的に閉経状態にするレルミナ錠を用いることもあります。
月経困難症の方に対して、これらのホルモン剤の中からふさわしいと思われる薬剤を選び、効果を確認しながら方針を立てていきます。
月経痛でお悩みの方は我慢せず、生活の質を向上させるために、是非婦人科を受診しましょう。