院長コラム

更年期障害に対する薬物療法

我が国の定義では、閉経の前後5年間、計10年間を更年期といいます。
女性ホルモンの低下に伴うホットフラッシュ、抑うつなどの身体症状・精神症状を更年期症状といい、生活に支障をきたす程に強い場合を更年期障害と言います。
今回は、患者さんの生活の質を高める目的で当院が使用している薬物療法について、情報共有したいと思います。

ホルモン補充療法(HRT)が治療の柱
乳がんや血栓症の既往などHRT禁忌の方を除いて、更年期障害の治療のメインの柱になるのがHRTです。
低下したエストロゲンを補うために、エストロゲン製剤を使用しますが、子宮がある方の場合、エストロゲン製剤単独で用いると子宮体がんのリスクが高まります。そのため、体がん予防のために、子宮内膜組織の増殖を抑制する黄体ホルモン製剤を併用する必要があります。
また、子宮体がん予防のためには、エストロゲン製剤と黄体ホルモン製剤を併用かつ持続的に投与することが望ましいですが、閉経して間がない方が持続的投与した場合、予期しない時期に不正出血をきたすことがあります。
そのため、閉経後早期の方には、エストロゲン製剤を持続的に使用する一方、黄体ホルモン製剤は2週間おきに使用し、4週間に一回予期できる時期に、出血をあえて起こさせる周期的投与をお勧めしています。
尚、当院ではHRT施行の方には、毎年乳房検診(マンモグラフィー・乳房超音波検査)、子宮内膜検査(子宮内膜細胞診・超音波検査)を受けて頂いております。

漢方薬はほとんどの方にお勧め
女性ホルモン剤が禁忌の方でも、比較的使用しやすいのが漢方薬です。
当院では、年に一回、血圧、肝機能、腎機能などの健康診断を受けて頂き、大きな副作用がなければ、漢方療法を継続しています。
更年期症候群に対する代表的な漢方薬に、「当帰芍薬散(トウキシャクヤクサン):体力低下・冷え・浮腫などの方」「加味逍遙散(カミショウヨウサン):虚弱・不眠・精神症状などの方」「桂枝茯苓丸(ケイシブクリョウガン):体力中等度以上・冷えのぼせ・下腹部痛などの方」があります。
当院ではこれら三剤を中心に、その他の漢方薬も含め、体質や症状などに合わせて処方薬を選択しています。

精神症状が強い方には向精神薬も
抑うつ症状などの精神症状が強い方には「SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬):レクサプロ錠など」を処方することがあります。
ちなみに、月経前症候群の抑うつ症状にSSRIを使用する場合は、周期的投与あるいは頓服薬として処方することが多いですが、更年期障害の抑うつ症状には連続的投与として処方しています。
また、不眠症の方には睡眠薬を用いることも多く、特に入眠障害がある方には「マイスリー錠」、中途覚醒が多い方には「ベルソムラ錠」などを中心に処方しています。

これら女性ホルモン製剤、漢方薬、向精神薬を併用する方も多く、それぞれの持ち味が合わさることで、より効果が発揮される場合があります。
また、当院では更年期障害に対して保険適応がある「メルスモン注(プラセンタ注射)」も取り扱っており、多くの更年期女性の方に喜んで頂いております。
更年期障害は症状、程度、日常生活への影響の度合いは個人差が大きいため、当院ではお一人おひとりに寄り添って、最善の治療薬の提供を心掛けて参ります。