院長コラム

更年期女性に対して当院で処方することが多い睡眠薬

産婦人科の外来診療でも、不眠を訴える患者さんは少なくありません。
特に、更年期障害として睡眠障害がみられる方は多く、ホルモン補充療法(HRT)のみで不眠が軽快する方もいらっしゃいます。
その一方で、HRTのみでは不眠が改善しない方、あるいはHRTが禁忌である方には、睡眠薬を処方することがあります。
今回は、「日本医師会雑誌 2024年8月号」も参考に、主に更年期女性に対して当院が処方している主な睡眠薬について説明します。

不安感のある入眠障害には「マイスリー(ゾルピデム)錠」
マイスリー(ゾルピデム)錠は非ベンゾジアゼピン系の睡眠導入剤で、抗不安作用も有しています。デパス錠などのベンゾジアゼピン系睡眠薬と比べて、ふらつき、翌朝の眠気などの副作用は少なく、比較的安全な薬剤です。
そうはいっても、高用量、長期間服用していると上記の様な副作用がみられる事があります。
また、作用時間は比較的短く、超短時間型の睡眠薬に分類されており、睡眠途中で目が覚めてしまう“中途覚醒”の方には、効果が弱いこともあるようです。
以上から、マイスリー(ゾルピデム)錠は、不安感のため寝つきが悪い方が、時々服用するのに適している睡眠薬と言えます。

入眠障害も中途覚醒もある方には「ベルソムラ錠」
ベルソムラ錠は「オレキシン受容体拮抗薬」の一つで、副作用が少なく、比較的安心して服用できる薬剤です。
「オレキシン」とは脳の覚醒に関係している物質で、その働きをブロックして睡眠状態に移行する薬剤がオレキシン受容体拮抗薬です。逆に言えば、マイスリー(ゾルピデム)錠とは異なり、抗不安作用は見られないようです。
その代わり、ベルソムラ錠は寝つきにも、睡眠維持にも有効であるため、入眠障害・中途覚醒の両方の睡眠障害を持つことが多い更年期女性には、使用しやすいい睡眠薬と言えます。
ただし、薬が効き過ぎて翌朝に眠気や倦怠感が残る方もいらっしゃるため、効果・副作用の程度を考えて用量や服用タイミングを検討しています。

以上の様な睡眠薬以外にも、漢方薬を処方することも少なくありません。
当院では、睡眠作用の強い「酸棗仁湯(サンソウニントウ)」、イライラを抑える「抑肝散(ヨクカンサン)」「抑肝散加陳皮半夏(ヨクカンサンカチンピハンゲ)」、精神症状を中心とした更年期障害全般に有用な「加味逍遙散(カミショウヨウサン)」、抑うつ症状が強い方には「加味帰脾湯(カミキヒトウ)」などを処方しています。

ただし、これらの薬物を併用しても睡眠障害が改善しない時には、うつ病などの精神疾患が隠れている可能性があるため、近隣のメンタルクリニックへ紹介させて頂いております。