院長コラム
思春期早発症とエストロゲン
思春期とは8~9歳頃から17~18歳頃の期間で、未熟な小児期から性的な成熟期への移行期をいいます。乳房発達から第2次性徴が始まり、陰毛の発現、身長の伸び、皮下脂肪の蓄積を経て初経を迎え、次第に月経周期が順調になります。
しかし、「乳房発達が7歳未満」、「陰毛発生が9歳未満」、「初経が10歳未満(早発月経)」がみられる場合を早発思春期(思春期早発症)といい、治療が必要になります。
今回は「エストロゲンと女性のヘルスケア」(武谷雄二東京大学名誉教授著 メジカルビュー社)、「女性医学ガイドブック 思春期・性成熟期編2016年度版」(日本女性医学学会編)などを参考に、思春期早発症とエストロゲンについて説明します。
思春期早発症の原因
思春期早発症の直接的な原因は、通常よりも早期にエストロゲン分泌が亢進してしまうことです。エストロゲン分泌亢進の原因の一つとして、脳腫瘍、中枢神経の炎症や奇形などが挙げられます。これらの疾患によって、ゴナドトロピン放出ホルモン(GnRH:視床下部から分泌)および卵胞刺激ホルモン(FSH:脳下垂体から分泌)の分泌が上昇し、その影響で卵巣が刺激され、卵巣からのエストロゲン分泌が亢進してしまいます。
その他、エストロゲンを分泌する卵巣腫瘍、副腎腫瘍、原発性甲状腺機能低下症なども思春期早発症の原因として知られていますが、実は多くの場合、原因は不明です。
エストロゲン分泌と生活習慣
思春期早発症の要因として、脳の松果体という部位から分泌されるメラトニンというホルモンの影響も考えられています。メラトニンは光刺激のない夜間に分泌が亢進し、明るい日中には低くなります。メラトニンの作用の一つに生殖機能調節機能があり、卵巣機能を抑制し、エストロゲン分泌を低下させることが知られています。しかし、夜間、人工的な照明にさらされていると、メラトニンの分泌が抑制され、その結果エストロゲンの分泌は亢進し、思春期が早まるといわれています。
また、脂肪組織が多いと思春期が早まることも知られています。脂肪組織から分泌されて食欲を抑える働きのあるレプチンというホルモンは、脳に働きかけ、結果的に卵巣からのエストロゲン分泌を増加させます。したがって、脂肪が豊富な食事を女児に与え過ぎると、思春期早発症となる危険性が高まる可能性があります。
思春期早発症の問題点と対策
器質的な疾患が思春期早発症の原因となっている場合は、他の重篤な症状を来たす可能性があるため、原因疾患の治療が中心となります。
その上で、思春期早発症が抱える問題点を3点挙げます。
○ 低身長
思春期早発症の場合、エストロゲンの上昇により骨の成長が早期に停止してしまうため、身長が伸びずに低身長となってしまいます。低身長を防ぐためには、卵巣からのエストロゲン分泌を抑制する必要があります。GnRHが脳下垂体の受容体に結合すると、結果的にエストロゲンが増加するため、GnRHと受容体との結合を邪魔する薬剤(皮下注射)を用いる治療が一般的です。
また、成長ホルモンの低下が見られる場合には、成長ホルモン補充も必要になることもあるようです。
○ 精神的不安
精神的な成熟よりも身体的な成熟のスピードが速いと、精神的に不安定な状態になり、社会適応に支障を来たすこともあるそうです。また、うつ状態や摂食異常との関連も指摘されており、精神科医や心理士などからの専門的なサポートが必要なケースもあります。
○ 性のトラブル
身体の早熟化に伴い、性犯罪などのトラブルに巻き込まれる可能性もあります。人工妊娠中絶の頻度や性感染症のリスクも高まると言われているため、より早い時期からの性教育も必要であると思われます。
思春期早発症の診療の主体は「小児内分泌科」となります。女児の早発思春期が気になる方は、まず近隣の小児内分泌科専門医のいらっしゃる小児科クリニック(あるいは「成長クリニック」など)を受診されことをお勧めします。
また、生活習慣として、少なくとも小学生の間はスマホやテレビ、勉強などで夜更かしさせず、しっかり睡眠をとらせ、バランスの取れた食事に心がけて、ファストフードや脂肪が豊富な食事を与えないことが、お子さんの健康管理にとって最も大切であると思います。