院長コラム

思春期女性の多嚢胞性卵巣症候群

多嚢胞性卵巣症候群(PCOS)は、排卵障害により月経不順をきたす疾患で、不妊症や生活習慣病の原因になることが知られています。
また、性成熟期女性の5~15%にみられ、月経異常などの症状は思春期からみられるとのことです。
2024年に改定されたPCOSの診断基準には「思春期条項」が設けられましたので、今回は「臨床婦人科産科 2025年4月号」を参考に、思春期のPCOSについて情報共有したいと思います。

成人の診断基準と思春期条項
成人のPCOSの診断基準は
①月経周期異常 
②多嚢胞卵巣またはAMH(抗ミュラー管ホルモン⇒残存している卵胞数を反映)高値 
③アンドロゲン(男性ホルモン)過剰症またはLH(黄体化ホルモン)高値 の3項目すべてを満たすもの、とされています。
一方、思春期女性の場合は、①月経周期異常と③ホルモン異常の2項目を満たすものを「PCOS疑い」とし、①と③のいずれか1項目のみを満たす場合を「PCOSリスク」と診断されるようになりました。
つまり、思春期女性の場合は②の項目は問わず、成人後(およそ18歳以降)に超音波検査で卵巣所見を確認し、または血液検査でAMH値を確認して、PCOSかどうかを診断することになります。

思春期女性の月経周期異常とは?
初経から数年間は卵巣機能が発達途上であるため、月経周期は確立していません。そこで、初経開始からの年数により月経周期異常の診断基準が決められました。
〇初経後1年未満:月経周期異常を判定できない
〇初経後1年以上3年未満:21日未満あるいは45日を超える月経周期
〇初経後3年以上:21日未満あるいは38日を超える月経周期
〇初経遅延(15歳以降の初経):月経周期異常

思春期のPCOS疑い例・リスク例への対応
PCOS患者さんは肥満や糖尿病を認めるケースが正常女性よりも多いため、思春期から食事や運動といった生活習慣の改善を指導する必要があります。
また、PCOS患者さんはエストロゲン(卵胞ホルモン:子宮内膜の増殖作用)が持続的に分泌されますが、無排卵により黄体ホルモン(子宮内膜組織の増殖を抑制する作用)が低値であるため、子宮内膜増殖症や子宮体がんの発症率が増加します。
そのため、将来子宮内膜の疾患にならないよう、思春期のうちから黄体ホルモン製剤を周期的に服用するなど、子宮内膜を周期的に剥がして出血させる事があります。

PCOSは、生涯にわたって様々な影響を及ぼす可能性があります。特に将来、不妊症や糖尿病などの生活習慣病になる可能性が否定できないため、思春期の頃からご自身が「PCOS疑い」あるいは「PCOSリスク」どうか知ることは非常に大切です。
月経周期異常みられる方はもちろん、実母や姉妹がPCOSと診断されている方も、是非お近くの産婦人科を受診するようにしましょう。