院長コラム

心臓・血管系の持病のある女性は妊娠前に循環器内科でご相談を

これから妊娠をご希望されている女性の方は、ご自身の心身の健康状態について把握しておく必要があります。
特に、合併症をお持ちの方は、その疾患が妊娠に与える影響、反対に妊娠が疾患に与える影響について、かかりつけの先生に尋ね、妊娠の可否や時期についてご相談することは非常に大切です。
今回は、特に心臓・血管系の疾患に関して、「日本医師会雑誌 2024年9月号」のレポートの情報を共有したいと思います。

妊娠・出産による循環動態は激変
妊娠すると循環血液量は増加し、最大となる妊娠30週頃には、妊娠前の1.5倍になることが知られています。
心臓の拍出量も妊娠前に比べて、妊娠24週には約40%、心拍数も約25%増加するとのことです。
また、陣痛が始まって分娩までの間に、心拍出量は妊娠前の約50%増加するそうです。
胎児と胎盤の娩出後は子宮内面から多量に出血しますが、子宮の強い収縮により出血量は減少します。
さらに、大きな妊娠子宮が急激に小さくなったことで、下半身に溜まっていた静脈血が一気に心臓に戻り、血圧を上昇させます。
その他、妊娠中や分娩後の母体は、出血量を抑える目的で、血液が凝固しやすい(血栓症になりやすい)状態となります。
このように、妊娠前に比べると、妊娠中、分娩中、産後の母体は、かなりダイナミックに循環動態が変化します。

循環器疾患合併の女性は「予期しない妊娠」をできるだけ避ける
心血管系に病気のない方であっても、妊娠中・出産後の循環動態の影響は非常に強いのですが、循環器疾患を抱える女性にとっては、命の危険が高まる可能性もあります。
そのため、かかりつけの循環器専門医に、妊娠に向けての診察・検査をして頂くなど、妊活に向けて万全を期すことが必要です。
逆に言えば、妊娠を希望しない場合は、しっかり避妊して頂かないといけません。
低用量ピルは非常に有効な避妊方法ですが、薬剤に含まれているエストロゲン成分には血栓症をきたすリスクがあります。そのため、低用量ピルを服用する前には、是非かかりつけの循環器専門医にご相談下さい。

循環器疾患合併の女性は、合併症のない女性に比べて、避妊、あるいは緊急避妊についての正しい知識を持ち、適切に実践することが、より大切となってきます。
そのためにも、循環器専門医だけでなく、産婦人科医もかかりつけに持つことをお勧めします。

尚、循環器疾患合併の方がご妊娠された場合、当院では国立成育医療研究センター、日赤医療センターなどの高次施設へ紹介させて頂きます。