院長コラム
当院における妊娠中の糖代謝スクリーニング検査について
妊娠初期の高血糖は胎児形態異常との関連が指摘されているため、妊娠初期の血糖測定は非常に重要です。また、妊娠初期に糖尿病であることが否定された方でも、妊娠中期以降に糖代謝異常をきたし、胎児や胎盤機能に悪影響を及ぼすことがあるため、妊娠中期にも糖代謝スクリーニング検査を行う必要があります。
今回は、「産婦人科診療ガイドライン産科編2020」(日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会編)を基に、当院における妊娠中の糖代謝スクリーニング検査について説明します。
妊娠初期のスクリーニング
当院では妊娠8~10週頃、妊娠初期の血液検査を行いますが、その項目の中に「随時血糖」が入っています。随時血糖とは食後2~4時間の血糖ですので、検査当日は採血の2時間以内の飲食を控えて頂いております。
随時血糖の基準値は「100mg/dl」とし、「100mg/dl未満」を正常、「100mg/dl≦」をスクリーニング陽性とし、診断検査へ移ります。
尚、随時血糖が「200mg/dl≦」の方は、「妊娠中の明らかな糖尿病」の可能性があるため、東京医療センター、国立成育医療研究センターなどの高次施設へ紹介します。
妊娠中期のスクリーニング
当院では妊娠24週頃、妊娠中期の血液検査として50gGCT(グルコースチャレンジテスト)を行っています。この検査では検査前の飲食は問わず、ご来院されたらブドウ糖50gの検査用炭酸水を飲んで頂きます。1時間後に採血をし、血糖が「140mg/dl未満」を正常、「140mg/dl≦」をスクリーニング陽性とし、診断検査へ移ります。
スクリーニング陽性者の診断検査
随時血糖「100mg/dl≦」または、50gGCT「140mg/dl≦」の方には、診断検査として75gOGTT(75g経口グルコース付加試験)を行い、併せて糖代謝の指標の一つであるHbA1cも調べます。75gOGTTでは、当日の朝から水以外の食事や飲物は摂取せずに、午前9時頃ご来院頂きます。採血は「空腹時」、「ブドウ糖75gの検査用炭酸水を飲んでから1時間後」、「飲んでから2時間後」の合計3回で、それぞれ血糖を調べます。
75gOGTTにて①「空腹時血糖値92mg/dl≦」②「1時間値180mg/dl≦」③「2時間値153mg/dl≦」の3点のうち、1点以上満たしたものを「妊娠糖尿病」と診断し、高次施設へ紹介します。一方、すべての基準を満たしていない方は、通常の妊婦健診に戻ります。
尚、「空腹時血糖値126mg/dl≦」「HbA1c6.5≦」「2時間値200mg/dl≦」も「妊娠中の明らかな糖尿病の診断または疑い」にて、やはり高次施設へ紹介させて頂きます。
当院分娩予定の妊婦さんで、75gOGTTにて妊娠糖尿病と診断された方の多くは、東京医療センターに紹介しております。
そこで更に精査し、栄養指導が行われた結果、血糖が十分にコントロールされ、合併症もなく母児に異常がなければ、再び当院で分娩させて頂くことも可能です。
ただし、インスリン治療が必要な妊婦さんの場合は、母児の安全を考えてそのまま東京医療センターで管理して頂く事になる旨、ご了承下さい。
尚、妊娠糖尿病と診断された方は分娩後6~12週にも75gOGTTを受けて頂きますが、高次施設へご紹介した方でも当院で検査可能です。