院長コラム

妊産婦さんと虫歯・歯周病

かつて6月4日は「虫(むし)歯」の日とされていたようですが、現在では6月4日~6月10日が「歯の衛生週間」と制定されています。
妊娠中はホルモン環境の変化、唾液の分泌低下、つわりによる不十分な歯磨きなど、口腔環境が変化します。口腔ケアが十分にできなければ歯周病が増悪し、虫歯も進行しやすいといわれており、わが国の調査では、妊婦さんの32%に歯周病が認められたとのことです。
今回、「産婦人科診療ガイドライン産科編2020」(日本産科婦人科学会・日本産婦人科医会編)を参考に、妊産婦さんと虫歯・歯周病について説明します。

 

 

妊娠中の虫歯と歯周病

虫歯とは、口腔内細菌が糖質から作る酸によって歯の実質が欠損した状態であり、歯周病とは、歯周病原細菌によって惹き起こされる歯周囲組織の炎症性疾患をいいます。これらは歯科の二大疾患とされており、妊娠中に悪化しやすいことが知られています。

特に、歯周病合併妊娠では、早産、胎児発育不全、妊娠高血圧腎症のリスクが有意に高いことが知られており、妊娠管理上も注意が必要になります。ただし、妊娠中に歯周病を治療すれば妊娠合併症が改善する、とは今のところ断言はできないようです。

しかし、だからこそ虫歯や歯周病にならないよう、妊婦さんが適切な口腔ケアを行うことが非常に重要であると考えられます。

 

 

産後のお母さんと赤ちゃんの口腔内環境

新生児の口腔内は、生まれた直後は無菌ですが、次第に口腔内細菌が増殖してきます。お母さんに虫歯が多いと、離乳食時のスプーンなどの共有や、食べ物を噛んで与えるなどの行為により、唾液を介して母親の口腔内細菌が赤ちゃんへ感染します。

したがって、産後は歯磨きがおろそかになりがちですが、赤ちゃんの口腔内環境を守るためにも、お母さん自身がしっかりと口腔ケアをする必要があります。

 

 

自治体の取り組み

多くの自治体では「産前産後の歯科健診事業」に取り組んでおり、世田谷区の場合は、産前の妊婦さん1回、産後1年以内の産婦さん1回、計2回の歯科健診を無料で受けることができます。是非、このような機会を利用しましょう。

 

 

妊娠前から虫歯や歯周病の治療をされている方も、歯科健診で病気が見つかった方も、妊娠中や授乳中に、X線撮影や局所麻酔による治療を行っても問題ありません。
歯科の病気も、予防・早期発見・早期治療が大切です。
是非、日頃からかかりつけの歯科の先生を持つようにしましょう。