院長コラム

妊娠前・妊娠中・産後の鉄欠乏性貧血対策

日本人女性の貧血の頻度は20%前後であり、世界的にみても高率と言われております。
特に、性成熟期女性の鉄欠乏性貧血や鉄欠乏状態は高頻度にみられ、積極的に予防・治療する必要があります。
今回は、当院で行っている妊娠前・妊娠中・産後の鉄欠乏性貧血への対策について説明致します。

妊娠前は「バランスととれた食生活」と「過多月経の治療」
貧血予防の基本は「バランスのとれた食生活」です。鉄分はもちろん、良質なたんぱく質、ビタミンB12・葉酸などが多く含まれる食品をバランスよく摂取することが大切です。
その上で、経血量が多いことも鉄欠乏性貧血の主因であるため、「レバー状の血の塊が出る」「日中使用する生理用品は7セット以上」など、過多月経が疑われる場合は精査・治療します。
鉄欠乏性貧血(ヘモグロビン値:12g/dl)がみられた場合は、不妊の要因にとなる可能性があるため、リオナ錠などの鉄剤の内服薬を開始します。
将来妊娠を希望される方で、月経困難症も見られる方には女性ホルモン剤(低用量ピル、黄体ホルモン製剤)などを使用します。
また、近々妊娠を考えている方には、葉酸や鉄、マルチビタミンのサプリメント「エレビット」などの摂取もお勧めしています。

妊娠中は貧血の悪化に注意
妊娠中は鉄の消費量が増えることや、血液が薄まる事などにより、鉄欠乏性貧血になりやすくなります。当院では、妊娠9週頃、24週頃、30週頃、36週頃に血液検査を行い、ヘモグロビン値11g/dl未満であればリオナ錠の投与を開始します。
妊娠中の貧血は、胎児の発育不全、低出生体重児、分娩時異常出血、うつ病など、母児の合併症に繋がる可能性があります。
そのため、消化器症状などの副作用のためリオナ錠内服ができない場合は、鉄剤の静注(モノヴァー静注)を行っています。

分娩後の貧血は“産後うつ”のリスク因子
分娩後の貧血は、疲労感・産後うつ病・乳汁分泌不全など。母体の心身に悪影響を及ぼします。
そのため、分娩時出血が多量となり、重度の貧血になることが予想される場合には、分娩直後からモノヴァー静注を開始します。
分娩時出血が多くない場合でも、分娩後2日目の血液検査でヘモグロビン値12g/dl未満であれば、リオナ錠を開始し、状況に応じて人参養栄湯(貧血や疲労感に保険適応)を併用しています。

若年女性の中には、無理なダイエットを行っている方も多く、たんぱく質・鉄・ビタミン類の摂取不足が鉄欠乏性貧血の要因となっています。
さらに、過多月経を自覚していても、産婦人科受診をせずに我慢している女性もいらっしゃいます。

産婦人科医として、外来受診の患者さんや妊婦さんの診療・治療はもちろん、中高生をはじめ若年女性への情報提供も重要な役割であると考えています。