院長コラム

器質性月経困難症に対する治療薬“3選”

子宮内膜症、子宮腺筋症、子宮筋腫といった病気が月経困難症の原因となっているものを器質性月経困難症といいます。
これらの病気の原因は不明な点も多いのですが、3疾患ともにエストロゲンという女性ホルモンが関係していることが知られています。
そのため、エストロゲンの分泌を減少させ、子宮内膜の増殖を抑えるホルモン療法が、器質性月経困難症治療の主流となります。
今回は、「日本女性医学学会雑誌 2024年4月号」等を参考に、当院での方針も交えながら、器質性月経困難症の治療についてお伝え致します。

低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬(LEP)
LEPは経口避妊薬と同じ種類の薬剤で、一日一回服用の低用量(あるいは超低用量)エストロゲン成分とプロゲスチン成分の合剤です。
エストロゲンの作用は子宮内膜を分厚くさせる事ですが、低用量のエストロゲンが含まれていることによって、自前のエストロゲン分泌が抑制されるため、むしろ排卵を抑える効果が高くなり、内膜も薄くさせます。
更に、プロゲスチンには子宮内膜組織の増殖を抑制する働きがあるため、軽症であれば子宮内膜症・子宮腺筋症の治療や増悪防止も期待できます。
使用方法には、周期的投与法と連続投与法があります。
周期的投与法は、月に一回休薬期間を設けることで、あえて女性ホルモン低下に伴う出血を起こし、服薬中の予想外の出血を起こさせない方法です。
一方、連続投与法は、3~4か月服用を続けた後に休薬期間を設けることで、出血の回数を減らす方法です。
連続投与法は周期的投与法に比べ、予期しない出血の頻度は高まりますが、月経困難症に対する治療効果、子宮内膜症術後の再発予防効果といったメリットも高いことが知られています。当院では、避妊効果を希望する若年女性で、子宮内膜症などの病気が比較的軽い方には「ヤーズフレックス錠」や「ジェミーナ錠」による連続投与法を第一選択としています。

プロゲスチン(黄体ホルモン)製剤
エストロゲンには血栓症のリスクがあるため、肥満・喫煙者・コントロールされていない高血圧症・前兆がある片頭痛持ちの方は、原則としてLEPは服用できません。
一方、プロゲスチン製剤は黄体ホルモン成分のみであり、エストロゲン成分が入っていないため、上記の方も比較的ご安心して服用できます。
ただし、1日に2回の服用が必要であり、不正出血をきたすことも少なくありません。
それでも、「ディナゲスト1㎎」による子宮内膜症・子宮腺筋症の治療・再発予防効果は高いため、当院では、中等度以上の子宮内膜症・子宮腺筋症の方や、LEP禁忌の方に対しては、第一選択として使用しています。

偽閉経療法
子宮内膜症・子宮腺筋症の中には、プロゲスチン製剤が効かないタイプがあります。その場合は、人工的に閉経状態にする治療、偽閉経療法を行うことがあります。
ただし、長期間治療することで、骨密度が低下し骨粗しょう症・骨折のリスクが高まるため、原則として6か月以内の治療に制限されています。また、副作用としてのぼせ・発汗などの更年期障害に悩まれることもありますが、適切な漢方薬の併用により、更年期症状が軽減することも少なくありません。
尚、「レルミナ錠」を月経時から1日1錠を食前に服用することで、早期にエストロゲン分泌量が減少し、次回月経から認められなくなります。
当院では、中等度以上の子宮筋腫・子宮内膜症の方、プロゲスチン製剤の効果不良の方、早く貧血を改善したい方、自然閉経への逃げ込みを希望する方など、積極的にレルミナ錠を使用しています。

以上3種類のホルモン製剤は単独で使用するだけでなく、切り替えながら使用することも少なくありません。
特に「LEPをしばらく使用し、子宮内膜が薄くなってからディナゲスト錠へ切り替える」「レルミナ錠を6か月使用した後、ディナゲスト錠を長期にわたり使用する」など、それぞれの薬剤の特徴を利用して治療しています。
尚、大きな卵巣チョコレート嚢胞・子宮筋腫を認める場合や、悪性の可能性が否定できない場合等は、ホルモン療法に固執せず、手術療法が可能な高次施設へ紹介させて頂きます。