院長コラム

分娩後の月経困難症への対応について

月経困難症に苦しんでいる方でも、妊娠すれば月経が止まるため、一時的にその苦しみから解放されます。
ただし、分娩後に再び訪れる月経トラブルの事を考えると、強い不安を感じる方も多いと思います。
そこで今回は、分娩後の月経困難症に対するホルモン療法についてお話致します。

黄体ホルモン放出子宮内システム(IUS)
IUSは、子宮内膜組織の増殖を抑える作用がある黄体ホルモンを、局所的に放出する器具です。IUSから持続的に分泌される黄体ホルモンの影響で、子宮内膜は薄くなります。
月経痛の原因の一つである痛み物質は、子宮内膜組織から産生されるため、子宮内膜が薄くなることで痛み物質の分泌の減少し、月経困難症は軽快します。もちろん、子宮内膜が薄くなるため、月経血も少なくなります。
IUSを一度子宮内に挿入すると、最長5年間は効果が継続するため、育児で忙しいお母さんには最適な治療法です。
確かに添付文書には、「IUSの成分である黄体ホルモンは微量ながら母乳に移行するため、授乳婦に対して一番にお薦めする“避妊方法”ではない」ことが記されています。また、産後間もない子宮の壁は軟らかいため、IUSが子宮筋にめり込むことや、子宮壁を貫通してしまう可能性も否定できません。
とはいえ、現実的にIUSの母乳への影響は少なく、血栓症などのリスクもないため、授乳婦さんや40歳以上の方には“月経困難症の治療”として、比較的安心して使用できると考えます。
尚、IUSの子宮壁への“のめり込み”や“貫通”を防ぐため、子宮が元の大きさに戻る時期(分娩後6週以降)になってから挿入しましょう。
ただし、IUSでは排卵を抑制することはできないため、排卵痛や月経前症候群(PMS)も同時に改善したい方には不向きです。
さらに、子宮内膜症・子宮腺筋症の直接的な治療にはならないため、これらの疾患が原因の月経困難症には他の薬剤を用いるのがよいでしょう。

低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬(LEP)
LEPも子宮内膜組織の増殖を抑制するため、月経困難症はもちろん、結果的に過多月経(保険適応外)にも効果を発揮します。さらにLEPは、排卵を抑制するため、排卵痛やPMSの治療効果も期待できます。月経トラブルが多岐にわたる場合は、一日1回服用のLEPがお勧めです。
ただし、エストロゲンは血栓症のリスクを高め、乳汁分泌を低下させる作用があるため、40歳以上の方、血栓症をきたしやすいお産後間もない方、授乳を継続したい方には不向きです。
尚、「OC・LEPガイドライン2020年度版」によるとLEPが使用できるのは、授乳している方で“産後6か月以上”経過している場合となります。一方、授乳していない方(他の血栓症リスクがない場合)では“産後3週間以上経過している場合、授乳していない方(他の血栓症リスクがある場合)では“産後6週間以上経過している場合となります。
また、月経困難症の治療目的でLEPを服用している場合は、結果的に避妊になってしまうため、すぐに妊娠をご希望されているのであれば月経困難症治療薬としてLEPを使用することはできません。

黄体ホルモン製剤(ジエノゲスト錠、ディナゲスト錠)
ジエノゲスト錠、ディナゲスト錠は月経困難症(0.5㎎錠)、子宮内膜症(1.0㎎錠)の治療薬であり、一日2回服用する必要があります。
黄体ホルモン製剤には血栓症のリスクがないため、授乳しない方であれば産後すぐに服用することができます。もっとも、現実的には分娩後初めての月経が始まってから、服用を開始することが多いのではないでしょうか。
ただし、これらの薬剤は微量ながらも母乳に成分が移行するため、授乳婦さんの場合、授乳しないことが望ましいとされています。
実際は、母乳への影響はわずかであるため、授乳を止める必要はないと思いますが、黄体ホルモン製剤の服用歴がない方に対して、あえて分娩後に新しく使用することもないと考えます。
妊娠前から月経困難症・子宮内膜症に対して黄体ホルモン製剤を服用しており、その有効性について確認されている方が使用の対象になると思われます。

IUSもLEPも、月経困難症に対して保険適応があると同時に、適切な使用・服用であれば、ほぼ100%の避妊効果も期待できます。
黄体ホルモン製剤は避妊目的で用いる薬剤ではありませんが、排卵を抑制し、子宮内膜を薄くさせる作用をもつため、理論上避妊となる可能性が高くなります。

逆に言えば、比較的早期に次の妊娠を考えている方は、これらのホルモン療法を行えないため、産後の月経困難症に対して鎮痛剤や漢方薬を組み合わせて治療することをお勧めします。