院長コラム
低用量ピル(OC・LEP)を服用すると、がんのリスクが上がるの?
避妊目的には経口避妊薬(OC:自費)、月経困難症に対しては低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬(LEP:保険)を服用される方が増えてきました。
OC・LEPは非常に有益な薬剤ですが、がんのリスクを心配されて、服用に躊躇されている方もいらっしゃいます。
そこで今回は、「OC・LEPガイドライン 2020年度版」を参考に、OC・LEPによる代表的な婦人科がんの発症リスクについて、情報共有したいと思います。
子宮頚がん:長期間の服用で、ややリスクが上がるかも
ある研究では、5年以上のOC・LEPの使用で、子宮頚がん・上皮内癌・高度異形成になるリスクがやや高くなる、との報告があります。
また、別の子宮頚部浸潤がんに関する調査では、OC・LEPを服用しないと子宮がん発生率は1,000人中3.8人でしたが、OC・LEPを服用することで発生率が4.8人に増えたそうです。
ただし、裏を返せば「OC・LEPを服用しても、子宮頚がんになる人は1,000人中1人しか増えない」とも考えられます。
OC・LEPが子宮頚がんリスクを上げてしまう理由として、子宮頚がんの原因である発がん性が高いヒトパピローマウイルス(ハイリスクHPV)に対する免疫力(排除力)の低下が挙げられています。
もっとも、HPVワクチン接種と子宮頚がん検診が子宮頚がん予防に有効であることは間違いないため、定期的に子宮頚がん検診を受けているのであれば、OC・LEPによる子宮頚がんリスクの増加は無視してもいいのでは、と私は思います。
乳がん:ストロゲンの量によっては増加する可能性も
OC・LEPの乳がん発症への影響に関しては、リスクを上げるという報告と、リスクを上げないという報告の両方があります。
特に、従来から使用されている“低用量”ピルのエストロゲン量を含む製剤では、乳癌リスクが上昇するとの報告があるようです。
一方、最近主流になっている“超低用量”ピルのエストロゲン量を含む製剤では、乳癌リスクを上げないだけでなく、むしろリスクを下げる可能性もあるようです。
OC・LEPによる乳がんリスクの上昇については不明な点も多く、あまり心配する必要はないと考えています。
ちなみに当院では、月経困難症に対する治療目的でLEPを使用する場合、超低用量ピルであるヤーズフレックス錠、ジェミーナ錠、ドロエチ錠、フリウェルULD錠などを第一選択で処方しています。
卵巣がん・子宮体がん:発症リスクを下げます(しかも服用期間が長ければ長い程)
1年以上のOC・LEP服用により、卵巣がん発症のリスクが低下し始め、10年以上の服用で50%以上リスクが低下する、と言われています。
さらに、OC・LEP服用を中止した後も、その効果は30年間持続する、との報告もあるそうです。
OC・LEPによる卵巣がん発症リスク低下の理由として、排卵を抑制することで卵巣の損傷を避けるから、などが挙げられています。
子宮体がん(内膜がん)の発症リスクも、1年以上のOC・LEPの服用で低下することが知られています。
ある調査では、10年以上のOC・LEPの服用により発症リスクが約34%低下とのことで、服用期間が長い程、発症リスクは低下するそうです。これらの効果は、OC・LEPに含まれているプロゲスチンが子宮内膜増殖を抑制しているから、と考えられています。
尚、OC・LEP服用中止後20年以上経過していても、子宮体がん発症リスクは低下し続けているようです。
女性ホルモン剤が禁忌でない方であれば、避妊や月経困難症の治療として、OC・LEPをもっと積極的に使用した方がいいのでは、と当院では考えています。
“がんが心配”と思われている方も、上記のようにほとんど心配されることはありません。
むしろ卵巣がんや子宮体がんの予防効果も期待できるため、快適な人生をサポートするOC・LEPの服用を前向きにご検討頂ければと思います。