院長コラム
ホルモン補充療法(HRT)としての黄体ホルモン放出子宮内システム(IUS)
月経困難症や過多月経治療のためにIUS(ミレーナ)を挿入していた方が閉経を迎え、HRTを行うことがあります。
今回はそのような方のミレーナの取り扱いについて、「ホルモン補充療法ガイドライン2017年度版」(日本産科婦人科学会・日本女性医学学会編)を参考に説明します。
ミレーナの作用
ミレーナにはレボノルゲストレルという黄体ホルモンが付加されており、子宮内に挿入して留置すると、5年間持続的に薬剤が放出される仕組みになっています。黄体ホルモンには子宮内膜の増殖を抑える作用があるため、ミレーナによって子宮内膜は菲薄化し、経血量は減少します。
また、子宮内膜からプロスタグランディン(PG)という痛み物質が産生されますが、ミレーナの作用で子宮内膜が薄くなるとPGの産生も減少し、月経痛が軽減します
以上から、ミレーナは月経困難症と過多月経が保険適応となっています。
HRTにおける黄体ホルモンの意義
更年期障害や閉経後骨粗しょう症に対してエストロゲンを補充すると、更年期障害の軽減や骨密度の増加などが認められます。ただし、子宮を有している女性にエストロゲンのみ投与すると、子宮内膜増殖症や子宮体がんの発生リスクが高まることが知られています。
そのため、子宮を有している女性に対しては、子宮内膜増殖を抑制する黄体ホルモン剤を併用する事が必要です。通常のHRTでは、黄体ホルモン剤の内服薬かエストロゲン・黄体ホルモン配合の内服薬または貼付剤を用います。
ミレーナはHRTに使用可能か
結論から言えば可能ですが、HRTとしては保険適応になりません。ただし、黄体ホルモンの全身投与よりも、ミレーナの方が子宮内膜増殖症の発生率は少なかった、との報告がありますので、臨床的な有効性はあると思われます。
当院の場合、50歳前後の月経困難症や過多月経の方に対して、保険診療としてミレーナを挿入します。その後5年以内に閉経となって更年期症状が出現した場合は、ミレーナはそのまま残し、エストロゲン製剤のみ投与します。その後、留置期間が5年になった段階でミレーナを抜去し、黄体ホルモンの内服薬に切り替えるようにしています。
ミレーナは月経困難症や過多月経の治療薬として大変優れていますが、HRTとしても有用であると考えます。
留置期間が5年以内であれば、閉経になったからといって直ちにミレーナを抜去するのではなく、HRTの可能性を考えて挿入後5年間は留置しておくことをお勧めします。