院長コラム

月経困難症と月経前症候群がみられる若年女性への対応

月経困難症とは、月経期間中にみられる下腹部痛や腰痛といった月経痛をはじめ、様々な心身のトラブルを言います。
一方、月経前症候群(PMS)とは、月経3~10日前から始まり、月経開始とともに軽快する、いらいら・抑うつ・乳房痛・頭痛といった様々な心身のトラブルをいいます。
両者は合併することも多いため、一緒に治療方針を立てることも少なくありません。
今回は、下腹部痛が主体の月経困難症と、抑うつ感が強いPMSに悩む若年女性に対する治療について、当院での方針をお示しします。

月経困難症治療として、低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬(LEP)を検討
月経困難症には、子宮筋の過剰な収縮が原因となる機能性月経困難症と、子宮内膜症などの疾患が原因となる器質性月経困難症があります。
思春期から20代前半の若年女性では機能性月経困難症が多く、子宮筋の過剰な収縮を抑える治療がメインになります。
子宮筋を収縮させる物質「プロスタグランジン(以下P)」は子宮内膜で産生されるため、子宮内膜を薄くさせてPの産生量を減少させることが、子宮収縮を和らげることになり、月経痛の改善に繋がります。
そのような作用を持つ代表的な薬剤は、LEPをはじめとする女性ホルモン製剤です。特に、1日1回の連続服用で月経の回数も減らすことができるLEPは、月経困難症の第一選択となります。

抑うつ症状を認めるPMSには「ジェミーナ錠」を検討
PMSの原因については不明な点も多いのですが、排卵後に分泌される黄体ホルモンの減少が要因の一つと言われています。
したがって、そもそも排卵を抑制し、黄体ホルモンを分泌させなければ、月経前に黄体ホルモンが減少することもないため、PMSの治療(むしろ予防)に繋がります。
前述のLEPは排卵を抑制する作用があり、連続して服用すれば薬剤に含まれる黄体ホルモン成分の低下も気にすることがないため、一剤で月経困難症にも、PMSにも治療効果が期待できます。
LEPの中でも、「ジェミーナ錠」に含まれる黄体ホルモン成分には男性ホルモン様作用があると言われています。男性ホルモンには、気分を高める作用があるため、抑うつ症状が主体のPMSにはジェミーナ錠が有用かも知れません。

漢方薬が有用な場合も
漢方薬には、子宮の緊張を和らげ、血行を良くすることで月経困難症を改善するものがあります。また、抑うつなど、メンタル症状に有効な漢方薬も少なくありません。
精神症状に有効で、月経困難症の改善も期待できる漢方薬の代表的なものは「加味逍遙散(カミショウヨウサン)」です。
これを連日服用しつつ、月経痛の改善が弱い時には「芍薬甘草湯(シャクヤクカンゾウトウ)」を月経開始前後に服用し、PMSの抑うつ症状の改善が弱い時には「半夏厚朴湯(ハンゲコウボクトウ)」などの漢方薬を月経前に頓用で使用することもあります。
尚、LEPと漢方薬を併用することで症状が改善される方も少なくありません。

ホルモン剤や漢方薬が服用できない方の場合、月経困難症に対しては鎮痛剤を月経開始前から、つまり、痛くなる前から飲み始めるといいでしょう。
また、PMSについては、「女性ホルモンの変動・カルシウム不足・むくみ」が症状を悪化させているともいわれているため、これらの改善を目的としたサプリメント「トコエル」(大塚製薬)を試してもいいかも知れません。
月経困難症もPMSも「我慢」や「気合」では改善しないため、日常生活に支障きたす方は、是非婦人科クリニックを受診して下さい。