院長コラム

膀胱炎症状や過活動膀胱症状が月経時のみ出現・増悪する方、それは膀胱子宮内膜症かもしれません

本来、子宮内膜組織は子宮体部の内側にしか存在しませんが、卵巣や骨盤腹膜など全く別の場所に存在し、そこで女性ホルモンの作用により増殖・消退・出血などを繰り返す病気を子宮内膜症といいます。
子宮内膜症のうち、尿路系に子宮内膜組織が存在するものを尿路子宮内膜症といい、子宮内膜症全体の約1~2%程度を占めるに過ぎない非常にまれな疾患です。
今回、尿路子宮内膜症の約85%を占める膀胱子宮内膜症について説明します。

 

 

膀胱子宮内膜症の症状

膀胱子宮内膜症患者さんの30%程度は無症状で、偶然発見されるといわれています。約70%の方は、月経時のみに泌尿器症状などが出現または増悪します。

具体的には、日中8回以上の頻尿(約40~70%)、急に尿意を感じ、我慢することが難しい尿意切迫感(約40~80%)、排尿痛(約40~80%)、寝ている間に2回以上の夜間頻尿(約50~75%)、突然強い尿意を感じ、トイレに間に合わない切迫性尿失禁(約20%)、血尿(約20~30%)などを認めることが多く、膀胱炎や過活動膀胱と症状が重なります。

また、膀胱子宮内膜症患者さんの約半数は骨盤内のその他の子宮内膜症病変を伴っていると報告されており、その場合は月経痛、月経以外の下腹部痛・腰痛、性交痛、排便痛といった一般的な子宮内膜症の症状も認められると思われます。

 

 

膀胱子宮内膜症の原因と検査

膀胱子宮内膜症の原因については不明な点が多く、いくつかの仮説が言われていますが、「月経血が卵管を通して腹腔内に逆流し、子宮と膀胱の間の腹膜に内膜症が生じ、それが次第に膀胱に浸潤する」という説が有力のようです。

検査は、婦人科的には、導尿による尿一般検査、経腟超音波検査、骨盤腔MRI検査、腫瘍マーカーの血中CA125測定など行います。各種検査で膀胱子宮内膜症が疑われた場合、泌尿器科へ紹介致します。泌尿器科では、尿の精密検査、膀胱鏡検査が行われ、膀胱内に腫瘍が認められた場合は膀胱鏡下で生検し、病理学的検査が行われます。

 

 

治療および予防

妊娠希望が強くない場合は、一般的な子宮内膜症に準じた薬物治療が第1選択となります。エストロゲンという女性ホルモンにより子宮内膜症は進行するため、エストロゲンを抑制することで内膜組織の増殖を抑え、萎縮させます。

具体的には、リュープロレリン皮下注(月一回、計6回)などによる偽閉経療法、ディナゲスト(1日2回内服)による黄体ホルモン療法、ヤーズフレックスなど低用量エストロゲン・プロゲスチン配合薬(LEP製剤)による偽妊娠療法など、いくつかの薬物療法の中から患者様に適した方法を選択します。

妊娠のご希望が強い方や薬物療法の効果が弱い方などは、手術療法を行うことがあります。通常は腹腔鏡下膀胱部分切除術が行われますが、病変の状況によっては開腹手術となることがあります。婦人科外来で薬物療法を行っているケースでも、手術適応の可能性があると判断した場合は、高次施設の泌尿器科へ紹介致します。

 

 

膀胱子宮内膜症は非常に珍しい疾患ではありますが、月経時に出現または増悪する一連の排尿トラブルがみられた場合は、膀胱子宮内膜症の可能性も考え、当院または近隣の泌尿器科を受診して下さい。
そして、膀胱子宮内膜症は他の子宮内膜症と同様、月経血の腹腔内への逆流が原因である可能性がありますので、月経困難症でお悩みの方には、通常の子宮内膜症および膀胱子宮内膜症の予防の観点からも、若い時期からLEP製剤を服用し続けることをお勧めします。