院長コラム

心身医学と仏教の言葉

先日の日本心身医学会学術集会では、大阪医科大学の先生の会長講演が行われました。
女性心身医療の先駆者であるその先生は仏教などにも造詣が深く、ストレスを抱えてこられた患者さんに向けて、禅語や仏教の教えをお伝えしているとのことでした。
今回は、特に私の心に響いた3つの言葉をご紹介します。

 

 

四苦八苦

四苦八苦とは、生・老・病・死の四苦に、愛別離苦・怨憎会苦・求不得苦・五蘊盛苦を合わせた八苦のことです。ここでいう「苦」とは、単なる苦しみではなく、「避けることができないこと」を意味しています。

最後の「五蘊盛苦」とは、「肉体的なものも、精神的なものも、思うようにはならない」との意味です。ストレスを抱えた方にとっては、「日々のストレスによる苦しみや心身の不調は、自分の思い通りにならない」という事をまず認めることが、治療にとって大切なことのようです。

私はこの言葉から、「自分の力が及ばないことに思い悩むのではなく、自分ができることを粛々と取り組みましょう」という意味を感じました。

 

 

放下著(ほうげじゃく)

放下とは投げ捨てるという意味で、著は強い命令形の助辞です。つまり「煩悩などのすべての執着を捨て去りなさい」との意味で、実践するのは非常に困難な禅語です。

しかし、演者の先生によると、「もっと欲しい」「持っているものを失いたくない」という執着がストレスになっていることが多く、それらを捨てることが自由を得るためには必要である、との事です。いわゆる「断捨離」の精神でしょうか。

私も「欲しいもの、失いたくないものが今の自分にとって本当に必要か、足かせになっていないか」を考えることが様々なストレスの軽減に繋がるように思います。

 

 

一水四見(いっすいしけん)

同じ水でありながら、天人はそれを宝石で飾られた池と見、人間は水と見、餓鬼は血と見、魚は自分の住処と見るように、見る心の違いによって同じ対象物でも異なって認識されます。一水四見とは、同じものや同じ環境であっても、ものの捉え方は人によって違う、ということを意味しています。

ストレスの原因で多いのが人間関係の悩みであり、演者の先生によると、「人によって、ものの見方は異なる」ということを認識して人付き合いをすることが大切である、との事です。

他人の認識を変えることは至難の業です。特に家族や友人、職場の人達と考え方や意見の食い違いで思い悩む時、「一水四見」を思い出せば、少し気持ちが軽くなるかもしれません。

 

 

講演で紹介された仏教の言葉は、私が患者さんにお話する際の参考としてではなく、私自身が自分の生き方を見つめるための指針として拝聴しました。その結果として、診療の質の向上にも繋げていきたいと考えています。