院長コラム

妊産婦さんの下肢静脈瘤対策

先日、東京医療センター心臓血管外科の先生の下肢静脈瘤に関するご講演がありました。当院におかかりの妊産婦さんの中にも、下肢静脈瘤に悩まされている方も少なくありません。
そこで今回は、ご講演内容を参考に、妊産婦さんの下肢静脈瘤対策について説明します。

 

 

下肢静脈瘤とは?

血管には心臓から全身に血液を送る動脈と、全身から心臓に血液を戻す静脈の二種類があります。そのうち静脈には、逆流を防ぐ弁がありますが、様々な要因で弁が機能しなくなると慢性的な静脈血の逆流をきたすようになります。その結果、下肢の表在にある静脈が拡張し、蛇行することになり、これを下肢静脈瘤といいます。

下肢静脈瘤に影響を及ぼす因子として、高齢、女性、妊娠、肥満、長時間の立ち仕事、遺伝などがあります。ちなみに、両親のうちどちらか一方が下肢静脈瘤をお持ちだと約50-80%の方が、両親とも下肢静脈瘤をお持ちだと約90%の方が発症するそうです。

症状は浮腫、倦怠感、こむらがえりなどの自覚症状が多いですが、美容的に気になる方も少なくありません。何らかの症状が見られた場合は、治療対象になります。

 

 

下肢静脈瘤にまつわる誤解

「下肢静脈瘤により血栓が生じ、その血栓が飛んで脳梗塞や心筋梗塞なる」「命にかかわることがある」「歩けなることがある」「足を切断することもある」など、下肢静脈瘤にまつわるいくつかの誤解が広まっているようです。ここでは、すべて否定させて頂きます。決して怖い病気ではないということをご理解下さい。

 

 

妊婦さんの治療方針

妊婦さんは子宮の増大に伴い下肢静脈瘤を生じやすく、特に多くの経産婦さんに認められます。ほとんど方は浮腫、倦怠感などの軽度な自覚症状のみであり、その場合は「圧迫療法」が第一選択となります。

市販のメディキュットなどのストッキングで様子を見ることが多いですが、一般的に圧が弱いため、医療用の弾性ストッキング(弱いタイプ:20~29 mmHg  中等度のタイプ:30~39 mmHg)が必要になることもあります。ちなみに、日中のみ装着し、夜間は脱いで頂くのがポイントです。

 

 

尚、分娩後は、子宮の復古にあわせて下肢静脈瘤が軽快することもありますが、静脈弁が機能不全に陥ってしまった場合は、治療が必要になります。通常は弾性ストッキングによる圧迫療法が勧められますが、改善しないときは、「血管内焼灼術」を行うこともあります。
これは、レーザーまたはラジオ波で静脈壁に熱を加えることで、血管を収縮させ閉塞させるという方法です。妊婦さんには行えませんが、褥婦さんでご希望の方には、東京医療センター心臓血管外科などへご紹介致します。