院長コラム

妊娠期・産褥期の向精神薬服用について

先日、日本周産期メンタルヘルス学会の学術集会に参加してきました。妊娠前、妊娠中、産褥期の様々な精神的なトラブルに対する予防法・治療法・対応策など多くの発表があり、大変勉強になりました。
今回は、学会のシンポジウムのテーマにもなった、妊娠期・産褥期の向精神薬服用のポイントについて説明します。

 

 

抗うつ薬:SSRI(選択的セロトニン再取り込み阻害薬)服用のポイント

SSRIは各種抗うつ剤の中でも抗うつ効果が比較的マイルであり、精神科医だけでなく内科医・産婦人科医が処方しやすい薬です。比較的軽度なうつ病の方や、抑うつ傾向が見られる方が服用しているケースが多いと思いますが、婦人科領域では月経前症候群・月経前不快気分障害に対する連続あるいは周期的投与されている方も少なくありません。

SSRIにはレクサプロ、ジェイゾロフィトなどいくつかの種類があり、そのほとんどは催奇形性を増やすことはなく、流早産のリスクもないため、妊娠中でも引き続き服用可能な薬剤といわれています。

ただし、数年前に「パキシル服用による胎児への催奇性、特に先天性心疾患のリスクが増加」と指摘されました。それ以来、妊娠初期からパキシルを積極的に服用しているケースは少なくなったようです。もし、現在パキシル服用の方で、近々妊娠を考えている方は、主治医の先生と相談し、パキシルを他のSSRIに変更して頂くのもいいでしょう。ちなみに当院では、レクサプロを用いることが多いです。

 

 

てんかん合併妊娠に対する抗てんかん薬の考え方

てんかんはてんかん発作を繰り返す脳の病気であり、患者さん自身がてんかん発作の出現を抑えることはできません。いつ発作が起きるかどうかがわからない、という不安は強いですが、てんかん患者さんの7~8割は抗てんかん薬の服用を続けることで発作が消失するといわれています。

抗てんかん薬を妊娠初期に大量に服用すると、神経管閉鎖症外(二分脊椎など)などの大奇形の発生率が上昇することが知られています。しかし、一般的な大奇形率が約3%のところ、抗てんかん薬服用者の場合でも約5%の上昇に留まるといわれており、あまり大きな差ではありません。

抗てんかん薬には様々な種類があります。バルプロ酸(デパケン)は最も使用されている薬剤のひとつですが、最も催奇性が高いことでも知られています。近々妊娠を考えている女性に対しては、可能な限り催奇性が少ないといわれている新規の抗てんかん薬への切り替えなど、治療方針の見直しも大切です。また、使用する抗てんかん薬はできるだけ単剤とし、使用量も少量に抑える工夫が、大奇形を予防する上で大きなポイントになります。

 

 

授乳中の向精神薬

添付文書には、向精神薬服用中は授乳を避けるように、との記載がほとんどですが、抗うつ薬、抗不安薬、抗てんかん薬を服用している授乳婦さんは、決して安易に授乳を中止するべきではない、といわれています。

向精神薬服用者が授乳することにより、新生児・乳児に合併症が認められたとの報告はありません。そのため、母乳哺育の多くのメリットを考えながら、服薬を継続することが望まれます。

 

 

妊娠中の薬物療法の基本は「必要最小限の量を可能な限り短期間で」行うことであり、向精神薬の場合にも当てはまります。
向精神薬服用中に予期せず妊娠してしまった場合でも、ほとんどのケースで問題ありませんが、不安な方は是非ご来院、ご相談下さい。