院長コラム

“冷え症”に有効な漢方薬

ここ数日でかなり気温が下がり、冷え症に悩む女性の方も多いかと思います。
冷え症に対する治療は西洋医学より、東洋医学の方が得意とも言われています。
そこで今回は、特に冷え症に有効な漢方薬を紹介します。

 

 

十全大補湯(じゅうぜんたいほとう)

十全大補湯を構成する生薬は、

① 血を補い、血を巡らせ、潤す生薬:地黄・川キュウ・当帰・芍薬の4種類
② 気を補い、胃腸機能を高める生薬:人参・蒼朮・甘草・茯苓の4種類
③ 気を巡らせ温める生薬:経皮の1種類
④ 元気にする、皮膚を強くする生薬:黄耆の1種類

以上合計10種類です。十全(全方位)に大いに補する、という意味で十全大補湯と命名されたそうです。

適応は病後の体力低下、疲労倦怠、食欲不振、ねあせ、手足の冷え、貧血であり、気力・体力ともに衰えた場合に用いられることが多い漢方薬です。

当院では疲労倦怠が強い方に対して、夏場は補中益気湯、冬場は人参養栄湯を用いることが多いですが、これらの漢方薬の効果が少ない時に十全大補湯を処方しています。

 

 

人参養栄湯(にんじんようえいとう)

人参養栄湯を構成する生薬は十全大補湯とほぼ同じですが、鎮咳・去痰に有効な遠志、五味子などが加わっています。

適応も十全大補湯と同様に、病後の体力低下、疲労倦怠、食欲不振、ねあせ、手足の冷え、貧血であり、特に咳・痰など呼吸器症状を認める方に用いられます。

当院では、冬場で手足の冷えや疲労感が強い方に用いる他、貧血が強く、ふらつきがみられる方にも用います。妊婦さんや授乳婦さんにも使用しやすいので、貧血が強い方には鉄剤との併用、鉄剤で胃腸症状が強い方には人参養栄湯を単独で用います。

 

 

温経湯(うんけいとう)

十全大補湯や人参養栄湯が手足の冷えに有効であるのに対し、温経湯は足腰が冷える場合に用います。適応症は、手足のほてり、唇の渇き、月経不順、月経困難症、帯下、更年期障害、不眠、神経症、湿疹、足腰の冷え、しもやけとなっています。

構成生薬は、

①気をめぐらせ、のぼせと冷えをとる生薬
②血を補い、血をめぐらせる生薬
③温める生薬
④局所のうっ血を正し、血をめぐらせる生薬
⑤気を補い、胃腸機能を高める生薬
⑥潤す生薬

の以上6種類であり、下腹部の冷えや痛みを訴える場合にも用いられます。

婦人科では、卵巣機能不全、特に多嚢胞卵巣症候群など排卵障害を認める方に用いることが多く、当院では挙児希望の方に対して、温経湯単独、あるいは排卵誘発剤と併用して処方することがあります。

 

 

当帰芍薬散(とうきしゃくやくさん)
加味逍遥散(かみしょうようさん)
桂枝茯苓丸(けいしぶくりょうがん)

これらの3剤は冷えに限らず、月経不順、月経困難症、更年期障害など、婦人科で最も使用される漢方薬です。更年期障害の不定主訴の中では、のぼせ、発汗と同じくらい冷え性も多くみられますが、のぼせ、発汗はホルモン補充療法が比較的有効であるのに対して、冷え性は比較的効果が弱い印象があります。

当院では、ホルモン補充療法中の更年期障害の方に対して、冷え性が残るケースには漢方薬を併用することも少なくありません。
3剤の使い分けですが、当院では、頭痛や浮腫を認める比較的虚弱体質の方には当帰芍薬散、虚弱体質で不安感、抑うつ、いらいら感など精神症状が強い方には加味逍遥散、比較的体力があり、下腹部の圧痛などを認める方には桂枝茯苓丸を処方する傾向にあります。

 

 

漢方薬で軽快する冷え症も多いですが、血栓症など大きな病気が隠れていることもあります。症状が片側で強い場合や漢方療法で軽快しない時には、他科へ紹介致します。
まずは、運動や入浴、食事や衣類での対策でも改善しない時には、受診してみて下さい。