院長コラム

乳がんの内分泌療法の副作用に対して、婦人科開業医ができること

乳がんの70~75%にはエストロゲンという女性ホルモンの受け皿(受容体)があり、エストロゲンがその受容体と結合することによって、がんの増殖や転移が活性化されます。
そこで、エストロゲンの影響を抑制する内分泌療法が、術後の再発防止の補助療法として、あるいは進行再発乳がんに対する優先的治療として広く行われています。
しかし、内分泌療法は5~10年に及ぶことが多いため、その副作用に悩まされることも少なくありません。
今回は、「日本医師会雑誌6月号」の記事を参考に、乳がんの内分泌療法の副作用に対して、婦人科開業医ができることを考えてみました。

 

 

内分泌療法の種類と作用

1. エストロゲンの供給を抑制

○ LH-RHアゴニスト:リュープロレリン皮下注など

脳下垂体から分泌される、卵巣を刺激するホルモンを減少させることで、卵巣から分泌されるエストロゲンを抑制します。

○ アロマターゼ阻害薬:アリミデックス内服薬など

アンドロゲンという男性ホルモンは、脂肪組織などにあるアロマターゼという酵素によってエストロゲンに変換します。アロマターゼ阻害薬は、アロマターゼの働きを阻害することで、アンドロゲンがエストロゲンへ変換されないようにします。

2. エストロゲン受容体をふさぐ

○ 選択的エストロゲン受容体調整薬(SERM):タモキシフェン内服薬など

SERMがエストロゲン受容体と結合することで、エストロゲンが受容体と結びつくことができなくなります。その結果、がん細胞の増殖が抑制されます。

 

 

内分泌療法の副作用と婦人科での対応

○更年期障害:ホットフラッシュ、抑うつ

内分泌療法によりエストロゲンが減少すると、ホットフラッシュ、抑うつなどの更年期症状をきたすことがあります。通常の更年期障害であればホルモン補充療法によるエストロゲン投与で症状が軽快しますが、乳がん既往の方にエストロゲンを投与することはできません。

そのような方に対して、漢方薬を処方することがあります。頭痛・肩こり・倦怠感なども認める方には「当帰芍薬散」、冷えや抑うつ・不安感など精神症状が強い方には「加味逍遥散」、比較的体格がしっかりされている方には「桂枝茯苓丸」、関節痛・神経痛がみられる方には「五積散」など、患者さんの体質や症状によって薬剤を選択します。

また、更年期障害で保険適応のある「プラセンタ皮下注射」を使用することがあります。ヒトの胎盤由来のエキスであり、女性ホルモンは含まれていないため、乳がん既往の方にも使用できます。週に2~3回注射されると、その効果を実感される方が多いようです。

大豆イソフラボンのサプリメント「エクオール」も使用が可能です。エクオールはエストロゲンと構造が似ているためエストロゲン作用を持っていますが、乳腺および子宮内膜組織に対しては抗エストロゲン作用、つまり抑制的に働きます。更年期症状をおさえつつ、乳腺組織を刺激しないエクオールですが、きちんと用量を守らないといけません。多量に服用することで乳腺組織に悪い影響を及ぼす可能性があります。当院では、エクオールの使用について、乳腺科の主治医の先生のご許可を頂く事を条件としています。

 

 

○ タモキシフェンによる子宮内膜肥厚

タモキシフェンは乳線組織に対しては抑制的に働きますが、子宮内膜に対しては刺激的に作用します。閉経後女性の場合、5年間のタモキシフェン内服で子宮体がんになるリスクが約3倍増加するといわれています。したがって、不正出血が見られた場合には子宮内膜細胞診が必要になりますので、是非婦人科を受診して下さい。

ちなみに、症状がなければ定期的な子宮体がん検査は特に推奨されていません。当院では、不正出血や超音波検査による子宮内膜肥厚がなければ、世田谷区がん検診の際、体がん検査をご希望された方を対象に行うようにしています。

 

 

乳がんの内分泌療法の副作用に対して、婦人科医の立場でサポートができることがあるかと思います。
不正出血がみられた場合はもちろん、更年期症状が改善しない場合などは、乳腺科の主治医の先生とご相談の上、是非婦人科にもいらして下さい。